第28回文学展「文学の怖い絵展」(実行委員日誌 2019.7.27)

それは数年前の学校の図書室でのこと。貸し出しの本について司書の先生と話していた。本を読む子は読む、読まない子は徹底して読まない、スマートフォンの普及による家庭内の課題と読書について云々話をする中で、ふとシリーズで発刊されている1冊の本が目に留まった。

「文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション<恋>・・ですか。」

怖い話が好きなのは今も昔も変わらないもので、私も小さい頃は夏の風物詩である「あなたの知らない世界」や「心霊写真特集」などはよく見て・・・コホン、歳がばれるのでこれ以上は自粛しておく。

怪談シリーズの本は小学校でも人気で、いつも行くたびに台本板が占拠していた。そんなシリーズではあるが、夏目漱石や芥川龍之介、川端康成など名だたる文豪が書いた怖い話を親しみやすい現代のイラストレーターによって装画や挿絵によって読み易くなっている印象を受けた。

時を経て平成30年5月。第三回で募集要項を置かせてもらったので御礼も兼ねて目白・池袋のブックギャラリーポポタムさんにうかがった時のこと、ある作家さんの個展が開催されていた。

「しさくするキマイラ・・・?」

RPG好きの私にとって興味深いタイトルである。「キメラ(合成獣)はドラクエでも手を焼いたなぁ。」と、どうでもいいことを思いだしながらもギャラリーに掛けられていたキマイラの作品はかなり大きく圧巻だった。

他もきれいな絵がずらりと並んでいたが、どこか不思議な感じを受けた。とりわけ、吸い込まれそうな目が特徴的だったことは今も覚えている。

そして物販コーナーに置かれている本を見て、「あ・・これ」一人、心の中でつぶやいて手に取った本は図書室でみたあの時の本だった。装画を担当した作家さん、谷川千佳さんの個展での出来事。

 

更に時は流れ、令和元年7月。第五回半空文学賞の企画も大詰めのある日、半空に郵便物が届く。菊池寛記念館から企画展の案内らしい。

第28回文学展「文学の怖い絵展」と題されたポスターを主宰から渡された時、飲みかけの珈琲カップを片手にもったままポスターに書かれた絵を凝視せずにはいられなかった。

「あの時の絵だ!」もはやあの時がどの時を差すのかどちらでもいいくらい動揺した。それもそのはずである、数年前に気に留まった本の装画が絶妙のタイミングで追いかけてくるようなものなのだから。7/27(土)作品展初日。誰に促されるわけでもなく、私の足は菊池寛記念館へと向かっていた。


恥ずかしながら、香川県民でありながら私は今まで菊池寛記念館に一度も足を運んだことがなかった。近いからいつでも行ける、あのロジックである。そしてこの日は言わば、デビュー戦である。さぞかし厳かな雰囲気に包まれた場所を想像していたが、よく通う高松市立図書館の3Fだったことにまず面食らった。灯台下暗しとはこのことか(正確には上であるが)。さらに、厳かをひっくり返すイケメン男子のパネル達が厳かな菊池寛像と共に出迎えてくれる、こう並んでいると意外とフランクに見える。

「作品展は4Fです」と受付の方に案内されながら入場料200円を支払い、3Fも見て回る。名だたる直木賞、芥川賞受賞者の顔写真とサイン本が陳列されているのを見るに菊池寛の功績がいかなるものかを改めて知ることが出来た。

4Fに上がり職員さんから展示資料の目録と共に展示スペースへと案内される。想像していたおどろおどろしい感、というよりは文豪達が描いた作品の説明と共に、イメージされた挿絵が添えられていて勉強になった。もっともおどろおどろしい感じが薄らいだのは汚れっちまった大人の階段を上ったせいかもしれないが(失礼)。もちろん、菊池寛他直筆の原稿など貴重な資料も数多く展示されていた。古き文豪と現代イラストレーターのコラボレーションは子供だけではなく大人にとっても馴染みやすく、今まで読んでこなかった本も手に取ってみようかというきっかけになるに違いない。是非親子で足を運んでもらいたい。

余談だが同日夕方、募集要項の案内でまんのう町図書館に立ち寄った時の事。子供向けの文学に関する図鑑が陳列されていた。手に取って、たまたま開いたページは菊池寛でこう書かれていた。Q「何をした人?」A「文藝春秋を創刊し、若手作家の育成の為に芥川賞・直木賞を設立した人」あなたは知っていましたか?

 

菊池寛記念館第28回文学展「文学の怖い絵展」2019.7.27~9.1

 

株式会社半空 nakazora.jp

〒760-0052

香川県高松市瓦町 1-10-18 北原ビル 2F

TEL : 087-861-3070