半空文学賞の歩み


香川県高松市は人口40万人の中核都市である。

 

僕は高松をとても気に入っている。大型都市だと人が多いせいで人が風景になってしまい、村だと人が近付きすぎて関係が凝ってしまう。これが高松だと、気分次第で人を風景にすることも出来るし、関わりに混じることも出来る。四国の玄関口とも呼ばれ、人の流動性もあり、風通しもいい。いろいろな事が絶妙なサイズなのだ。その高松市の繁華街で店を開けて14年になる。

 

本と音楽を軸にしたカフェなので読書に耽るお客さんも多い。本を店に並べているけれど、持ち込んだ本を読んでいるお客さんが何を読んでいるのか気になって、つい聞いてしまう時がある。しかしそれがきっかけで僕の読書世界は拡大されているのでとてもありがたく思っている。

 

書き物をしているお客さんもいる。時間を忘れたように前に置いたノートやパソコンとの蜜月の世界に没頭している。僕は彼ら、彼女らが何を書いているのか気になる。とても気になる。しかしさすがに見せて欲しいとは言えない。雑談の中から遠回しに尋問してみるのが関の山だ。しかしこの関の山を繰り返してわかった事は、自分の「作品」を書いている人がとても多いという事だ。短歌、俳句、詩、短編小説、エッセイ、旅の覚え書き、などである。中には公募されている文学賞に応募して小説家になろうとしている人もいる。しかしそれ以外の人たちは、人に見せる予定はない、まぁ、もしかしたら、匿名のSNSに載せるかも、という極私的なプレイヤーだった。

 

自分の書いたものを他人に見られるということは裸を見られるより恥ずかしい、ということだから、さすがに裸以上を見せてくれとは頼む勇気がない。しかし、あるとき思いついた。自分が文学賞を設ければいいじゃないか。という事で「第1回半空文学賞」を設置した。小説、エッセイ、日記、散文、短歌、詩、など文字の作品なら何でも可にして、A4用紙1枚以内というサイズ制限にした。誰でも全作品を読めるようにして1人1票の投票制にした。以上の内容を告知した。すると予想をはるかに超える数の作品が集まってきた。普段喋った事のないお客さんが、そっと作品を手渡してきたり、遠いところでは東北や九州からも郵送で送られてきた。当然僕はニヤニヤがおさまらない。何か隠された個人の内側に踏み込んだような甘い気持ちに襲われた。

 

 

2カ月の募集期間の最後の日には駆け込みで多くの作品が店のポストから溢れかえった。締め切り後の投票期間でも予想を超える多くの人が投稿作品を読み込んで悩みに悩んで投票してくれた。集計の結果、大賞に選ばれた作品は同票数で2作品あった。どちらの作品もその人からしか見えない角度から人の心を捉えた作品だった。その後、自分でも何か書いてみようと思いました、第2回も投稿します、とか、人に感想もらうのも嬉しいですね、など何かの小さなキッカケになったようだ。元々は不埒な僕の衝動ではあったが、それはまぁ置いておいてそろそろ第2回の募集を始めようと思っているところだ。

 

珈琲と本と音楽 半空 店主 岡田陽介

 

 第二回半空文学賞によせて(「ヒトハコ 創刊号」株式会社ビレッジプレス 2016年11月10日発行)

 

 



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